ラマン増幅用の新しい励起光源技術を開発

2019年3月6日

当社は、インコヒーレント光を用いたラマン増幅用の新しい励起光源技術を開発しました。インコヒーレント光を用いた新しい励起光源技術は、励起光の揺らぎによる信号光への影響を抑えるため、従来は実用化が困難であった前方励起ラマン増幅が実現できます。前方励起ラマン増幅は光ファイバ通信の伝送特性向上、伝送距離拡大に有効な技術であり、今回の開発は、5G時代の急激なトラフィック増大の予想に対応して世界的に開発が進む600Gb/s や1Tb/s 超のデジタルコヒーレント光伝送など、光ファイバ通信システムの高速・大容量化に大きく貢献するものと期待されます。
この新しい励起光源技術とラマン増幅光伝送における有効性については、2019年2月7日よりサンフランシスコで開催された世界最大の光技術関連国際会議(Photonics West 2019)(注1) 並びに、2019年3月3日よりアメリカのサンディエゴ で開催中の世界最大の光ファイバ通信関連国際会議(OFC2019)(注2)において発表いたしました。

背景

光ファイバを用いたラマン増幅はErドープ光ファイバ増幅(EDFA)と並び現在の光ファイバ通信を支えるコア技術です。EDFAは1990年代前半に実用化され、1.48μmと0.98μmの励起レーザーが使用されています。当社は1.48μm励起レーザーの高出力化、実用化で世界をリードしてきました。高出力1.48μm励起レーザーの開発はラマン増幅技術の開発を促し、1990年代後半から2000年代前半に実用化に至りました。特に光ファイバ線路が増幅媒体となるラマン増幅は光ファイバ損失による伝送特性劣化を改善する技術としてEDFAと併用され広く普及しています。
ラマン増幅では、励起レーザーが有する揺らぎが光信号に影響を与えるため、受信側から励起する後方励起ラマン増幅が標準的に用いられています。後方励起ラマン増幅では、信号光と励起光が反対方向に進むため励起光が信号光に及ぼす揺らぎは平均化されその影響は軽減されますが、光ファイバを伝搬する信号の伝送特性に改善の余地がありました。前方励起ラマン増幅では、伝送特性改善に優れラマン増幅の効果を最大限に生かすことができますが、信号光と励起光が同じ方向に伝搬するため励起レーザーの揺らぎが信号に影響を及ぼし伝送特性を劣化させてしまいます。このため、長らく前方励起ラマン増幅用の新しい励起光源技術の開発が望まれていました。

内容

今回の新しい励起光源技術は、インコヒーレント光源に半導体増幅器(Semiconductor Optical Amplifier、以下SOA)の発する自然放出光(Amplified Spontaneous Emission、以下ASE)を利用しています。ASEはランダムな光であり、ファブリ・ペロー共振器構造のレーザーにみられる発振モード間の揺らぎが無く、前方励起ラマン増幅でも信号光に影響を与えません。
一方、光ファイバ通信システムに適用するには小型、高信頼な光モジュールが必要となりますが、当社は、デジタルコヒーレント光伝送用信号光源で培ってきたSOAおよび高度なパッケージ技術を有しており、これらを最大限に活用し小型で高出力なインコヒーレント光源技術の開発に成功しました。また、インコヒーレント光を励起レーザーでラマン増幅する技術開発も合わせて進め、光ファイバ通信システムへの適用領域拡大もはかりました。例えば、新しい励起光源を1次励起、励起レーザーを2次励起とすれば長距離伝送システムの特性向上が容易になります。
遊雅堂 オッズはEDFAおよびラマン増幅用の励起レーザーで世界をリードして来ましたが、今回のインコヒーレント光を用いた新しい励起光源技術の開発によって、引き続き光ファイバ通信システムの大容量化、高度化に貢献してまいります。

関連する研究発表

(注 1)M. Morimoto et al “Co-Propagating Distributed Raman Amplifier Utilizing Incoherent Pumping” Photonics West 2019, Invited Paper 10946-21

(注 2)T. Kobayashi et al, “PDM-16QAM WDM Transmission with 2nd-order Forward-pumped Distributed Raman Amplification Using Incoherent Pumping” the Optical Fiber Communication Conference (OFC) 2019, paper Tu3F.6

用語解説、図説

新しい励起光源技術を用いた前方励起ラマン増幅

参考

・後方励起ラマン増幅: 現在標準的に採用されている方式

・前方励起ラマン増幅:伝送特性改善に優れているためその実現が期待されていた

関連リンク